"普通"が強い愛の言葉になる幼馴染の絆
あらすじ・主な登場人物
ハロルドとセレイアは、生まれたときから婚約者だった。ずっと訪れる未来を疑うことなく、一緒に育ってきたふたり。だがふたりが21歳になったときに、王女のハロルドへの横恋慕によりふたりは引き裂かれ、セレイアは辺境伯の元へ嫁ぐよう命じられる。
辺境伯のディルクは王女にセレイアの根も葉もない悪評を吹き込まれており、セレイアを受け入れようとしなかった。だが、徐々にセレイアの本当の気質と王女の嘘にディルクは気づき始め――
感想
まず、面白かった。
このような感想は上から目線で好きではないのだが、非常にストーリー展開がうまい作者さんだった。Kindleで読めるのは今、3作品しかないけれども、全部読んで全部好きだった。
ずっと続いていくと思っていた関係を引き裂かれた幼馴染のふたり。ふたりの現在が描かれる合間に、一緒に育ってきたふたりの過去の回想が挟まっていく。
ふたりの想いはすれ違ったままなのに、読者はセレイアの回想から、語られることのなかったハロルドの真意を悟り、ハロルドの回想から、普通平凡と称されるセレイアの可愛らしさを悟る。"普通"がとんでもなく熱烈な愛の言葉に聞こえてくる。とても切ない。なのに、とんでもない勘違い野郎ディルクやらキャラの立っている侍女やら、どたばた喜劇の匂いも感じる。
この作品に根っからの悪人は出てこないし、根っからの善人もいない。(王女はまあ……だが、彼女は次の作品にも出てくるので……)
出てくるのは、ごく普通で不器用で鈍感で素直じゃない女の子と、ちょっと顔が良すぎるが幼馴染の女の子に頭が上がらない、だいぶヘタレな男である。あとはその周辺の人々。
最後に、これは作者が狙ってのことなのかわからないが、一気に読み終わってからタイトルを見返してあれってなった。ちょっとだけネタバレな気もするが、読んでる最中はぐいぐい展開に惹きこまれていたので、「そういう」お話だと全く思っていなかった。
本の情報
- 作者:御鹿なな
- イラスト:北沢きょう
- 出版:ジュリアンパブリッシング/フェアリーキス (2020/9/28)
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