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すべてが焼き尽くされた野原にいつか咲くかもしれない 希望の物語

  • タイトル:五年で私を愛せなければ離縁してください
  • 作者:黛 千也
  • イラスト:仲野小春
  • 出版:アマゾナイトノベルズ (2022/11/21)

あらすじ・主な登場人物

三姉妹ながら、賢い姉と美貌で評判の妹に挟まれ、平凡と評されていた伯爵令嬢コルネリア。そんな彼女はある日、名門侯爵家の嫡男に嫁ぐことになる。だが、相手のシュテファンとは一度も顔を合わせることなく式を迎えることになる。

初夜の晩、夫となった人は「貴方を愛することはない」とコルネリアに告げる。

感想

"型"で言えば、「君を愛することはない」×「魅了」。だが、このお話には、魅了でお約束な男爵令嬢も、それに騙される王子や貴族令息も、断罪ざまぁする令嬢も出てこない。ヒロインはその事件を知ってはいるが、当事者ではなかった人間だった。

すべてが終わり、残された関係者は地位も名誉も失い、取り返しのつかない過去を抱えて何とか生きていかねばならない現実。焼け野原のような、寒々しいそのスタート地点で、ヒーローはヒロインに、あのお決まりのセリフを吐くわけである。

どのような背景があろうとも、腹立たしいし傲慢でもあるセリフだ。おまけに、この縁談は夫側から望んだものである。なのにヒーローがヒロインを結婚相手に選んだ理由がまた酷い。
ヒロインは仲の良い姉妹の協力も得ながら、相手を断罪するよりも自分が高みを目指すことを決意する。大きな事件が起きるわけではないが、日常の中で、夫婦の関係性がゆっくり描き直される。気持ちが変わるのは案外、こんなささいなことがきっかけだったりするよね、と少し拍子抜けしながらほほえましくもなる。

物語の主軸ではないが、背景にあった大事件にもわずかな希望が見える終わり方だった。人生すべてをスカッと〇〇で処理すればよいというものでもない、という現実と感情を冷静に描いた物語である。

 


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