tsukitnskの本棚

令嬢系中心にTLやラノベを読んでいるブログ

「ざまぁ」で敵の頭を下げさせるのではなく、自分が高みを目指し続ける誇り高いヒロイン

あらすじ・主な登場人物

父親に一方的に決められた政略結婚のために公爵家に嫁ぐことになったオパール。だが、社交界デビュー時の不運により謂れのない悪名を着ることになったオパール公爵家の人間は誰も信用せず、まともな扱いをしなかった。だが、元々独りで生きていくつもりだったオパールは状況に屈せずに、離婚する道を探り始める。だが、オパールはまともな領地経営をされていないせいで苦しい生活を送っている公爵領民を見捨てられず――

感想

つい最近(2023/10/10)、新刊が出たので、購入するかを考えるために既刊を読み直したらやっぱりとんでもなく面白い!となったため(もちろん最新刊もその日の内に買った面白かった)。シリーズの中では今のところ3巻がいちばん好き。ストーリーもだが、あとから「ああ、なるほど!だからあの場面がああでこうで」と読み返したくなる。

だが、それ以外の巻ももちろん面白い。面白いというか、フィクションを読む気持ちよさや醍醐味を感じられる。作者さんの他の作品もなのだが、いわゆる「ざまぁ系」の構造に似ているお話作りであっても「ざまぁ」ではない。というところがファンとして推したいポイントである。

特に「屋根裏シリーズ」のヒロインであるオパールは、まだストーリーの世界観の中ではめずらしい女性の資産家であり、頭もよい。その気になれば、たぶん彼女を不当に扱うすべての人間を不幸に追いやる才覚も持っている。
だがオパールはそうしない。己の肩に掛かっている責任を忘れず、その力を活かして何ができるかを考えている。他者の悪意に寛容でありつつも、一方で許してはならない一線もしっかり見極めている。他者を断罪の名の元に踏んづけて見下すのではなく、裁かれるべきを裁き、己を顧みながら前に進んでいく、とても気持ちの良い人物だ。

この作品にも、様々な「敵」は出てくるが、彼らがどうしてそうなったのか、という部分がしっかりと描かれている。そしてオパールは彼らに人間として接し、それぞれにどう相対すべきか考え、実行していく。
なかでもシリーズ一作目では結婚相手のヒューバードに対して思い切った手段に出るわけだが(というところが話のミソだが)、決して彼がもう彼の居場所に戻れないところまで追い込みはしない。体面はぎりぎりで守りながらも、やり直す機会を与える。そんなオパールに感化されるヒューバードだが、それでも性格が一昼夜で変わる訳もなく、また別の人間関係が生まれていく。登場人物たちとのその繰り返しがストーリーとなっている。

たぶん次の新刊が出るころに、また全巻読み直して「やっぱり面白い!」となると思う。

本の情報

 


月の本棚 (月) - ブクログ

最後まで結末が見えないが、そこはかとないユーモアもあり一気に読んでしまう

  • タイトル:やり直し令嬢と宿縁の王 ~自国の滅亡を回避できないので、人生諦めようと思います~
  • 作者:マツガサキヒロ
  • イラスト:堤
  • 出版:ジュリアンパブリッシング/ロイヤルキス (2022/7/29)

あらすじ・主な登場人物

元公爵令嬢のオーレリアは、過去に三度の人生を生き、ふたりの夫と結婚した。だが、何とか祖国と自分を生かす道を見つけようと奮闘するも空しく、時を戻す魔法が繰り返され、四度目の人生に戻ってしまう。

結婚するという道を拒絶したオーレリアは国境近くの修道院に入り、治癒魔法を使って民の為に働いていた。だが、そこで再びかつての夫となったふたりと邂逅してしまう。

感想

最後までどちらに転がるかわからないお話だった。人は誰かに見出だされ、役割を負うことによって生き方が変わる。自分を強く持っているつもりでも、自分一人で、自分の生き方や、自身の人となりを決めることは難しい、ということを、全く違う4回のオーレリアの人生を辿りながら思う。

オーレリアは「二人目の夫」ランベルトを恐ろしい巨人のような人間だと思っていた。だが、彼は自分のことを透明人間だという。オーレリアも、ある意味ではずっと、透明人間だったのかもしれない。自分の生き方にどう色を付けようとしても、彼女以外の人間にはその色をまるで見て貰えず、そしてオーレリアは何度も人生を繰り返すことになった。

それぞれの登場人物が抱えている過去は重たいのだけれど、ふたりの"夫"達が彼女をめぐるやり取りの中にはそこはかとないコミカル加減もあり、一気に読む中で心の移りようがすんなり染みた。誰かが少しずつ何かを諦めながらも、光を見つける終わり方でよかったと思う。

 


月の本棚 (月) - ブクログ

すべてが焼き尽くされた野原にいつか咲くかもしれない 希望の物語

  • タイトル:五年で私を愛せなければ離縁してください
  • 作者:黛 千也
  • イラスト:仲野小春
  • 出版:アマゾナイトノベルズ (2022/11/21)

あらすじ・主な登場人物

三姉妹ながら、賢い姉と美貌で評判の妹に挟まれ、平凡と評されていた伯爵令嬢コルネリア。そんな彼女はある日、名門侯爵家の嫡男に嫁ぐことになる。だが、相手のシュテファンとは一度も顔を合わせることなく式を迎えることになる。

初夜の晩、夫となった人は「貴方を愛することはない」とコルネリアに告げる。

感想

"型"で言えば、「君を愛することはない」×「魅了」。だが、このお話には、魅了でお約束な男爵令嬢も、それに騙される王子や貴族令息も、断罪ざまぁする令嬢も出てこない。ヒロインはその事件を知ってはいるが、当事者ではなかった人間だった。

すべてが終わり、残された関係者は地位も名誉も失い、取り返しのつかない過去を抱えて何とか生きていかねばならない現実。焼け野原のような、寒々しいそのスタート地点で、ヒーローはヒロインに、あのお決まりのセリフを吐くわけである。

どのような背景があろうとも、腹立たしいし傲慢でもあるセリフだ。おまけに、この縁談は夫側から望んだものである。なのにヒーローがヒロインを結婚相手に選んだ理由がまた酷い。
ヒロインは仲の良い姉妹の協力も得ながら、相手を断罪するよりも自分が高みを目指すことを決意する。大きな事件が起きるわけではないが、日常の中で、夫婦の関係性がゆっくり描き直される。気持ちが変わるのは案外、こんなささいなことがきっかけだったりするよね、と少し拍子抜けしながらほほえましくもなる。

物語の主軸ではないが、背景にあった大事件にもわずかな希望が見える終わり方だった。人生すべてをスカッと〇〇で処理すればよいというものでもない、という現実と感情を冷静に描いた物語である。

 


月の本棚 (月) - ブクログ

ラブストーリーと友情の両方を楽しめ、涙する

  • タイトル:リセアネ姫と亡国の侍女
  • 作者:ナツ
  • イラスト:山下ナナオ
  • 出版:ジュリアンパブリッシング/フェアリーキス (2017/8/28)

https://amzn.to/41N48b6

あらすじ・主な登場人物

父親に疎まれて幽閉されていた皇女パトリシアは、父帝が討たれて国が滅びた日に、隣国の王太子クロードに助けられる。ふたりは強く惹かれ合うが、身分を捨てたパトリシアーティアと名を改めた彼女と王太子が結ばれることは許されるはずもなかった。

クロードの妹のリセアネは、政略結婚としてフェンドル国へ嫁ぐことになる。フェンドル国王は、ティアを処刑しようとした人物だった。だが、リセアネはクロードとティアの恋が実るように働きかけるため、彼女を侍女として連れていくことを決める。

感想

前作「ナタリア姫と忠実な騎士」に続くサリアーデ王国の3兄妹のお話。今回は、前作でヒロインの妹として登場したリセアネと、兄のクロードが出征先で出逢った亡国の皇女、ティアがWヒロインの形で描かれていく。

何もかもが恵まれており聡明な長所もたくさん持っているのに、際立つ容貌故に誤解されることが多く、内心では鬱屈したものを抱えているリセアネ。一方、父を諫め続けても報われずに、国を失うことになったティア。ティアは父親に喉を突かれた影響で、声も命すらも殆ど失いかけていた。

ひたむきに失われた国のことを想うティアに感化され、王族としての責任を果たすことを考え始めるリセアネ。一方、物怖じしない性格のリセアネに、自分を押し殺すことしかしらなかったティアも癒されていき、王妃となった彼女を支えたいと願う。

異なったバックボーンを持つので、それぞれの考え方や性格、行動は全く違う。だが、それ故に互いが互いのために起こした行動が道を切り開いていくことになる。ヒロインふたり分のラブストーリーも堪能しつつ、友情が築かれていく過程を見守れる。でも、ストーリーに無駄なところがなくしっかり整理されている。そして単純に涙が出る。なんというか「お得」な話である。

ちなみに、Wヒロインだけあって、当然カップルも2組登場するわけだが、私の推しはどちらかというとクロード×ティアである。はじめは庇護する関係性であっても、上下関係ではなくて互いの立場や生き方を尊重し、ひたむきに想い合う大人のカップルだと思う。

 


月の本棚 (月) - ブクログ

前世の未練と現世の溺愛の幸せな融合

本の情報

  • タイトル:私の推しは当て馬です! 転生して義弟を可愛がったらめちゃくちゃ執着されました
  • 作者:クレイン
  • イラスト:白崎小夜
  • 出版:メディアソフト/ガブリエラブックス (2020/7/30)

あらすじ・主な登場人物

義弟アロイスが実は自分と血の繋がりがない存在だったと知った日、ユリアナは同時に前世の記憶も思い出した。彼はユリアナが前世で読んでいたマンガの登場人物で、予期せぬ死を遂げる未来が待っている。推しの未来を変えなければ!と奮起するユリアナだが、実はもうすでに結構現在とマンガの世界は変わってしまっており…?

感想

物語の起点となるユリアナが前世の記憶を取り戻すのは16歳だが、3カ月違いの二人が義姉弟になるのは10歳の頃。マンガでは義家族との仲も冷え切っていたアロイスだが、今世では記憶も取り戻していない内からユリアナが義弟(元推し)を溺愛し、農業を趣味とし、病に倒れた前世の未練を無意識に晴らす形で伸び伸びと人生を謳歌していたことで、すでにだいぶ世界観が変わっている。しかも悲恋相手になるはずだったヒロインも、ちょっと「思ってたのと違った」状態

義姉を手に入れる為なら何でもやってしまうことから作中でヤンデレとも形容されるアロイスだが、推しに執着するあまりに農業改革に乗り出すユリアナもなかなかのものだと思う。おまけに、前世では実践に活かすことのできなかった卒論もしっかり活用。前世の心残りもしっかり現世で晴らしている。

ちなみにユリアナは、推し作品以外の日々の生活も克明に記憶しているタイプの、やや珍しい転生令嬢なのだが、その流れを受けたエピローグが素敵。時が流れれば失われるものもあるが、文字通り、品種改良した小麦の如く現世にしっかり根を張って生きていく転生令嬢である。

 


月の本棚 (月) - ブクログ

"普通"が強い愛の言葉になる幼馴染の絆

あらすじ・主な登場人物

ハロルドとセレイアは、生まれたときから婚約者だった。ずっと訪れる未来を疑うことなく、一緒に育ってきたふたり。だがふたりが21歳になったときに、王女のハロルドへの横恋慕によりふたりは引き裂かれ、セレイアは辺境伯の元へ嫁ぐよう命じられる。
辺境伯のディルクは王女にセレイアの根も葉もない悪評を吹き込まれており、セレイアを受け入れようとしなかった。だが、徐々にセレイアの本当の気質と王女の嘘にディルクは気づき始め――

感想

まず、面白かった。
このような感想は上から目線で好きではないのだが、非常にストーリー展開がうまい作者さんだった。Kindleで読めるのは今、3作品しかないけれども、全部読んで全部好きだった。

ずっと続いていくと思っていた関係を引き裂かれた幼馴染のふたり。ふたりの現在が描かれる合間に、一緒に育ってきたふたりの過去の回想が挟まっていく。

ふたりの想いはすれ違ったままなのに、読者はセレイアの回想から、語られることのなかったハロルドの真意を悟り、ハロルドの回想から、普通平凡と称されるセレイアの可愛らしさを悟る。"普通"がとんでもなく熱烈な愛の言葉に聞こえてくる。とても切ない。なのに、とんでもない勘違い野郎ディルクやらキャラの立っている侍女やら、どたばた喜劇の匂いも感じる。

この作品に根っからの悪人は出てこないし、根っからの善人もいない。(王女はまあ……だが、彼女は次の作品にも出てくるので……)

出てくるのは、ごく普通で不器用で鈍感で素直じゃない女の子と、ちょっと顔が良すぎるが幼馴染の女の子に頭が上がらない、だいぶヘタレな男である。あとはその周辺の人々。

最後に、これは作者が狙ってのことなのかわからないが、一気に読み終わってからタイトルを見返してあれってなった。ちょっとだけネタバレな気もするが、読んでる最中はぐいぐい展開に惹きこまれていたので、「そういう」お話だと全く思っていなかった。

本の情報

  • 作者:御鹿なな
  • イラスト:北沢きょう
  • 出版:ジュリアンパブリッシング/フェアリーキス (2020/9/28)

他の御鹿なな作品

 


月の本棚 (月) - ブクログ

世界から弾かれたふたりがゆっくりと運命を育てる物語

あらすじ・主な登場人物

第一皇女でありながら父親に憎まれ、不幸な未来しか見えない結婚を二度も強制されたマリーア。三度目の結婚の為に皇都に連れ戻される道中、マリーアはすべてを捨てて国を逃げ出した。それから二年経ち、平民として酒場で働いていたマリーアは、客としてやってきたある海軍兵士の男と出会う。

感想

今、この作品のどこに泣いたのか、どこに心を持っていかれたのかをネタバレなしで書きたくて非常に困っている。

マリーアは第一皇女という高い身分に生まれながら、父である皇帝に憎まれた為に、生きる上で当然の欲求や感情を表に出す機会すらも奪われた少女だった。
(少し話は逸れるが、皇帝が後妻とその子供たちに対しては良き夫であり父親だったという言及がさらりとされることが非常に空恐ろしかった)

マリーアを気に掛ける人間が全くいなかった訳ではないけれども、その周囲の人間すらも、彼女には自分の人生を選択する権利があるということについては全く考えず、結局は彼らの正義に照らし合わせて「善かれと思って」行動しただけだった。

この作品のヒーローとマリーアはふたりとも、世界に憎まれ、弾かれた人間だった。
かつて誰からも必要とされていなかった孤独と苦しみが、ふたりを寄り添わせたきっかけではあると思う。
だが、状況に押される形であったとしても、確かに自分の意志で道を選び、二年半の逃亡生活を送った中で、マリーアは変わった。"今"のマリーアが彼と出会ったことで、それ以外の何かも、確実に変わった。

物語に二人きりの閉じられたハッピーエンドはないと、フィクションの枠組みを超えて提示しているような幕引きだった。

本の情報

  • 作者:イチニ
  • イラスト:天路ゆうつづ
  • 出版:ジュリアンパブリッシング/ロイヤルキス (2022/2/25)

 


月の本棚 (月) - ブクログ