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令嬢系中心にTLやラノベを読んでいるブログ

世界から弾かれたふたりがゆっくりと運命を育てる物語

あらすじ・主な登場人物

第一皇女でありながら父親に憎まれ、不幸な未来しか見えない結婚を二度も強制されたマリーア。三度目の結婚の為に皇都に連れ戻される道中、マリーアはすべてを捨てて国を逃げ出した。それから二年経ち、平民として酒場で働いていたマリーアは、客としてやってきたある海軍兵士の男と出会う。

感想

今、この作品のどこに泣いたのか、どこに心を持っていかれたのかをネタバレなしで書きたくて非常に困っている。

マリーアは第一皇女という高い身分に生まれながら、父である皇帝に憎まれた為に、生きる上で当然の欲求や感情を表に出す機会すらも奪われた少女だった。
(少し話は逸れるが、皇帝が後妻とその子供たちに対しては良き夫であり父親だったという言及がさらりとされることが非常に空恐ろしかった)

マリーアを気に掛ける人間が全くいなかった訳ではないけれども、その周囲の人間すらも、彼女には自分の人生を選択する権利があるということについては全く考えず、結局は彼らの正義に照らし合わせて「善かれと思って」行動しただけだった。

この作品のヒーローとマリーアはふたりとも、世界に憎まれ、弾かれた人間だった。
かつて誰からも必要とされていなかった孤独と苦しみが、ふたりを寄り添わせたきっかけではあると思う。
だが、状況に押される形であったとしても、確かに自分の意志で道を選び、二年半の逃亡生活を送った中で、マリーアは変わった。"今"のマリーアが彼と出会ったことで、それ以外の何かも、確実に変わった。

物語に二人きりの閉じられたハッピーエンドはないと、フィクションの枠組みを超えて提示しているような幕引きだった。

本の情報

  • 作者:イチニ
  • イラスト:天路ゆうつづ
  • 出版:ジュリアンパブリッシング/ロイヤルキス (2022/2/25)

 


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