tsukitnskの本棚

令嬢系中心にTLやラノベを読んでいるブログ

複雑に縒り合わさった糸のような感情がやがて同じ方向を向き始める物語

あらすじ・主な登場人物

自国の卑劣な策略で虜囚とされた隣国の騎士団長テオドール。城で下女として働いていたオデットは特別手当のために、彼の世話を買って出る。毎日拷問に掛けられては独房に戻ってくるテオドールは、今にも命を失う寸前だったが、オデットはひたすら彼を世話し続けた。

拷問の日々は、彼を助けにきた隣国の奇襲によって終わりを告げる。そのとき彼の傍にいたオデットは、気づけば彼と一緒に隣国に連れ去られていた。テオドールはオデットに愛を告げ、求婚してくるが、恩を感じているだけだと彼女はなかなか受け入れられない。

感想

人が人を想う気持ちは、ひとつではない。というのが真っ先に思った感想。複雑に縒り合わさった糸のような感情が重厚で、満足感があった。

お互いに孤独を抱えながら生きてきた身。テオドールがオデットに向ける情は真っすぐでありながら、ある種の狂気に反転しかねない危うさがある。オデットがテオドールに向けるものはもっとジグザグと複雑だった。所詮自分は賃金目当てに人質の世話を買って出ただけだし、という負い目もある。だが、それを負い目と感じていることは、つまりオデットにもすでにテオドールに対しての"それだけではない”気持ちが芽生えている証でもある。実際、出逢いの状況を考えれば、ストックホルム症候群として別の展開を辿ることも有り得ることなのかもしれない。

だが、徐々に互いを理解し、暮らしを重ね、夫婦としての信頼を重ねていく内にゆっくりと縁が結ばれていく。閉じた世界で完結してしまいそうな危うさもあったが、社会的な立場を得て、夫婦として認知されることもこのふたりには大事だったのかもしれない。家族を得、穏やかな生活を築いていく過程がしっかり描かれている作品。

本の情報

  • 作者:碧貴子
  • イラスト:yuiNa
  • 出版:夢中文庫/夢中文庫プランセ (2022/9/9)

 


月の本棚 (月) - ブクログ